そろそろベーシックインカムの穴を指摘しておく

「無職は悪」という考え方が、働く人を死に追いやる - 上伊由毘男のブログより、

なぜ死んでも働かなくてはならないのか。

なぜ仕事がなくて死ななければならないのか。

全ては、「無職は悪」とする意識、風潮、空気、コモンセンスに起因する。

と言い切ってるが、意図的かどうか分からないがこれは間違えている
過労死するような人は無職は悪だなんて考えてなんかいないし、仕事がなくても生活保護が受けられるので死ぬことはない。

ただし、無理して働かなくても生活していける社会の実現を目指すべきという考え方には同意したい。
その答えとしてのベーシックインカム(以下BI)なのだろう
ベーシックインカムが実現するなら消費税は100%でも200%でも良い - 上伊由毘男のブログ

ここでも基本的な部分を引用
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20111121/224022/

BIとは、「すべての国民に対して、(働かなくとも生活できる程度の)一定のお金を無条件で給付する制度」である。

ポイントは、

(1) 年齢とか性別とか、その他の様々な属性や境遇に関係なく、「全員一律」であること。

(2) 働いていようが、働いてなかろうが関係なく、「無条件」であること。つまり「働かざる者、食うべからず」ではないこと。

(3) 給付されたBIは子供の教育に使おうが、パチンコに使おうが自由にできる、「現金給付」であること。

の3点である。

問題点として
「働く人がいなくなる、労働の尊さを忘れる」
「財源問題」
の2つが挙げられている

「働く人がいなくなる、労働の尊さを忘れる」
の点では元記事について特に反論はない。BI推進論者の基本的な説明だろう。
ただし、BI推進論者はなるべく多くの年齢層・職業で
「働かなくても食べていけるとしても今の職業を続けますか?」
アンケートを取って、BIに切り替わっても大丈夫かどうかの具体的な試算をして欲しい


「財源問題」
元エントリでは消費税をどんどん上げていけばいいという答だったがこれは無理筋だろう。
昔の独裁状態だった自民党時代ならいざしらず、今現在、民主党が消費税を上げるかどうかで大変な議論になっているので、簡単に消費税を上げるのは政治的に不可能だ。
さらに、消費税100%は物価が二倍になることを意味しているので、国民は食料品ぐらいしか買えないカツカツの生活を強いられ、家電製品や車などが売れなくなったり個人輸入が流行ったりして国内の産業はボロボロになるだろう。
いくら稼いでもほとんどが税金に消える国に残る物好きは居ないので、能力のある人間はどんどん海外に逃げ、日本は海外に逃げられない残りカスだけの国になることは間違いない。


さらに問題はまだまだある。

「傷病者や障害者が特別扱いされない問題」
国民が全員一律になるということは、身体的なハンディキャップを持っていようが持っていまいが全員同じスタートラインに立たされるということだ。
この弱者切捨て政策はBI導入時の財源確保のための重要な部分なのでここを見直すことはできない。
生まれついての障害を持っていて、毎月病院にかからなきゃいけない人間はBIの給付金から医療費がどんどん引かれ、就職しようにも健常者より不利な状況に置かれ、生き続けるために死ぬような思いをして働きづづけなければいけないことになる。
さらに健常者であってもうかうかしていられない。病気や事故で働き続けることが難しい状況になってしまったら障害者と同じく、生き続けるために辛い仕事に耐えるしかなくなってしまうのだ。


「介護問題」
BI推進論者は、介護業界のように辛い仕事の割に給料が低い業種は、労働力の需要と供給のバランスから適正な給料になると謳っているが、その先がすっぽり抜け落ちている。
介護を受ける老人は高くなった給料に見合うだけの料金を払わなくてはいけなくなるし、社会保障費をなくした結果、国からの補助を受けられず全額自己負担になるので、よっぽどのお金持ちしか介護を受けられなくなってしまう。
介護サービスを受けられない中流以下の家庭で老人を抱えてしまうと介護に追われる事になるし、身よりも蓄えもない老人がどのような最期を迎えることになるか想像もしたくない。

貧困層の再生産」
BIは人間一人頭に対して支給されるので、子供は産めば産むだけ得である。なんの能力のない人間でもどんどん子供を増やしていけば生活に困ることはなくなる。
これだけ見れば少子化対策の素晴らしい政策に思えるが、問題はそう単純ではない。働かないでも良い暮らしをしている親を見て育った子供は、当然同じように働かないで子供ばっかり増やすだろう。
結局、少子化が解消したはいいが、社会の役に立たず負担ばかり増やす層がどんどん増える事になる。この連中は昼間からぶらぶらしているので社会不安の原因にもなり、選挙の時はこの連中の意見を取り入れなくてはならなくなるので政治がどんどん衆愚化してしまう。
これは杞憂ではなく、似たような状況に陥って引き起こされたのが、イギリス暴動だと言われている。
イギリス暴動の裏にある鬱屈と絶望について
元エントリは大変素晴らしい考察なのでぜひとも一度読んでおいて欲しい。


以上のように穴だらけのBIに対してBasic Nutriment「食糧配給型社会」という考えがあったので紹介したい。
【BI→BN】世界経済を救う方法を思いついた【エル・プサイ】:哲学ニュースnwk
ここでは具体的なプランが練られていなかったので、自分なりに実現案をまとめてみた。

人間の生活に直結する食料品の価格を貨幣経済から分離するという試み

  • 生活保護の額を減らし、フードチケット制に移行。生活保護受給者は月額上限付きで食料品を9割引で買えるようにする。
  • 第一次産業従事者の半公務員化。生産量が多くても少なくても過去の実績に応じてある程度の基本給を保証。豊作の時にはボーナスを支給。
    • 漁業は乱獲を防ぐために採り過ぎをチェックする。市場にはこれまでどおり流通させ、売上の一部を税金として徴収。税金として徴収する額は基本給とのバランスを見て調節する。
    • 生産者の監視は市民にしてもらう。各種偽装行為が明らかになった時は生産者にペナルティ
  • 時機を見て生活保護受給者以外でも食料品の割引を受けられるようにする。

○どこかの地方自治体で試験的に導入。対象都市の生活保護受給者全員に強制はされるが問題が発生した時の便宜は図るようにする。

  • 突っ込みどころは財源かなぁ。始めのうちは社会保障費からある程度削るとして、BIみたいに最終的には全ての人で平等になるようにして、社会保障関連の公務員を減らす必要がある。
  • アメリカみたいに肥満が増えないように、医療分野でも何らかのアプローチが必要
  • 最終的に生活保護者の食以外をどうやって保証するかの問題も。限界集落第三セクターみたいな形の農業・林業の企業みたいな全寮制の会社を作ってそこでゆるく働いてもらうとかかなぁ
  • 住む所さえ何とかなれば働かなくても済むのでシェアハウス等で何とかするとか
  • 食料品の横流しをある程度織り込む。北朝鮮の『チョコパイ本位制』なんて冗談があったけど、保存食なんかを現金化すれば働かなくてもある程度の生活が出来る『保存食本位制』も実現可能なのでは。

横流し対策

  • 一人一人の購入履歴をチェックするシステムを作る
    • 同一品目ばかり買っていると「栄養指導」が入る
    • 一品5千円以上のものは高額商品として割引されない

○日本が保存食本位制になると・・・

  1. 保存食の個人輸出で外貨を稼ぐ者が現れるかもしれない
  2. 安くて高品質な保存食が日本の主要輸出品目に
  3. 全国の家庭の保存食備蓄量が増大するので災害に強くなる
  4. 加工食品工場は生産地の近くに作った方が効率的なので地方産業が活性化される

BN論もまだまだ穴だらけだと思うので、議論が活発化してより具体的で実現可能な案に成長することを願う。